香りには、人の記憶を一瞬で呼び覚ます不思議な力があります。
街角を歩いているとき、あるいは誰かの隣に座ったとき、ふと漂ってきた香りが、長い間忘れていた遠い日の情景を鮮やかに蘇らせる―そんな体験をしたことがある人は少なくないでしょう。

私にとって「和アロマ」との出会いは、不眠症からの解放を助けてくれただけでなく、幼い頃の温かな記憶と再会するきっかけにもなりました。
私がはまった和アロマ
アロマオイルといえば、ラベンダーやオレンジ、ペパーミントなど海外の植物を原料とした香りを思い浮かべる方が多いと思います。
実際、私が最初に手に取ったのもラベンダーの精油でした。
当時、不眠に悩んでいた私は、先輩看護師に「眠れない夜は枕元にラベンダーを一滴垂らしてごらん」と勧められました。半信半疑で試したその夜、深く安らかな眠りにつけたことは今でも鮮明に覚えています。
しかし、次第に私は「和アロマ」と呼ばれる、日本の植物を原料にした精油に心惹かれるようになりました。
特にヒノキや杉といった日本の森林を思わせる香りは、ひと呼吸するだけで肩の力がふっと抜けていきます。仕事で疲れ切った夜や、心が落ち着かないとき、和アロマはまるで「おかえり」と囁いてくれるかのように、静かに寄り添ってくれる存在となりました。
香りが呼び起こす子供の頃の記憶
和アロマの香りに触れると、なぜだか幼い頃に過ごしたおばあちゃん家の風景が自然と蘇ってきます。今思えば、それは「香りの記憶」が強く結びついていたからなのでしょう。
おばあちゃんの家は田舎の古い木造建築でした。畳の青々とした匂い、柱や梁から漂う木の温かい香り、そしてほんのりと湿気を帯びた古民家特有の匂い―それらは私にとって、安心感そのものを象徴する香りでした。
冬になると、庭先で焼き芋を作るのが恒例行事でした。藁を燃やすときに立ち上る香ばしい煙の匂いは、今も鼻腔に鮮明に残っています。和アロマのスモーキーな香りに触れるたびに、熱々の焼き芋をほおばって「おいしいね」と笑い合った情景が心に浮かび、思わずほっこりしてしまいます。

また、夏休みのほとんどをおばあちゃん家で過ごした子供時代。
いとこたちと一緒に田畑を駆け回り、蝉の声を聞きながら縁側でスイカを食べ、高くそびえる杉の木に囲まれた神社へ探検に出かけました。盆踊りでは浴衣を着て、屋台で駄菓子を買ってもらった嬉しさも昨日のことのように思い出されます。
こうした体験と、杉やヒノキの清々しい香り、藁の煙の匂いは深く結びつき、私の「香りの原風景」となっているのです。
和アロマが持つ「郷愁の力」
海外のアロマオイルも確かに魅力的で、リフレッシュや集中力アップ、リラックスといった効果を持っています。しかし、和アロマの持つ独特の力は、何よりも「郷愁」を呼び覚ます点にあると感じます。
私たち日本人が幼い頃から自然の中で触れてきた香り―ヒノキ風呂の清らかな香り、畳の心地よい青い匂い、田舎の夏の草木の匂い。それらは香りを通じて脳裏に刻まれ、無意識のうちに安心感や心の落ち着きと結びついています。
不眠症に悩んでいた頃の私は、「眠れないこと」にばかり意識が向いていました。しかし和アロマを取り入れることで、「あぁ、この香り、知ってる」という懐かしい感覚に包まれ、自然に緊張が解ける瞬間が訪れました。


香りは単なる匂いではなく、心を過去へ連れて行き、穏やかにしてくれる「小さなタイムマシン」のような存在なのです。
あなたも一度「和アロマ」を試してみてください
和アロマとの出会いは、私にとって不眠を和らげる助けとなっただけでなく、子供の頃のおばあちゃん家での温かな思い出を呼び起こしてくれるものでした。
焼き芋の藁の香ばしい匂い、古い家の木の香り、杉やヒノキの森の清々しい空気―それらは和アロマを通して今も私の心に息づいています。
香りは人を癒すだけでなく、過去と現在をつなぐ不思議な力を持っています。
もしあなたが日々の疲れや眠れぬ夜に悩んでいるなら、一度「和アロマ」に触れてみてください。それはきっと、あなたの心に眠る懐かしい記憶を呼び覚まし、やさしい安らぎを届けてくれるはずです。