不眠症との長い闘い
「眠れない夜が続くと、人はこんなにも弱ってしまうのか」
当時の私は、その現実を痛感しながら毎日を過ごしていました。
看護師という仕事は、常に命と向き合う責任と緊張の連続です。夜勤や長時間勤務も重なり、心も体も張り詰めたまま。布団に入っても「明日の担当患者さんは大丈夫かな」「今日の処置に問題はなかっただろうか」と考えが止まらず、眠りの入り口にたどり着けませんでした。
それはいわゆる「入眠困難」。眠れない不安がさらに眠れなさを呼び、疲労と焦りだけが積み重なっていく。小さなことのようでいて、心身をじわじわとむしばむ、大きな問題でした。
最初は「一晩ぐらい眠れなくても大丈夫」と思っていました。
ところが日が経つにつれ集中力は途切れ、些細なことでヒヤッとすることが増えてゆき…仕事に支障が出るかもしれないという恐怖から、「眠れない自分」を強く責めるようになり、自己肯定感は地の底に落ちました。
寝る前に時計を見ては「もう2時間も経った」「明日も仕事なのに…」と焦りが募る。朝方に少しウトウトできても、身体の芯に残った疲労感は取れないまま出勤…そんな悪循環が続いていました。
温かいミルクを飲む、眠くなると言われる本を読む、睡眠導入剤に頼る――いろいろ試しても「また眠れなかった」という事実だけが心に重くのしかかりました。
そんな私を救ったのは、同じ病棟で働く先輩・ユキさんのひとことでした。
先輩からの小さなアドバイス
ある日の昼休み、私は疲れ切った顔で椅子に沈んでいました。
そのとき、ふっと漂ってきた心地よい香り…斜め前に座ったユキさんからでした。
思い切って尋ねると、ユキさんは微笑みながら「これは香水じゃなくてアロマよ」と教えてくれました。
「アロマは香りを楽しむだけじゃなくて、心や体を整えるサポートにもなるの」
そう言ってユキさんは、ハンカチに数滴垂らしたアロマの香りを私に手渡してくれました。
鼻に近づけた瞬間、ふわっと広がる香りが、こわばった心をほんの少しほどいてくれるように感じました。
その後もユキさんからアロマの具体的な使い方や選び方を教えてもらううちに、「科学的根拠はともかく、一度この優しい力を試してみる価値はあるかもしれない」と、藁にもすがる思いで試すことを決意しました。
初めてのラベンダー

不眠に悩んでいた私に、ユキさんは使いかけのラベンダーオイルを分けてくれました。
「寝る前にティッシュに1滴垂らして枕元に置いてみて。リラックスできるから」
その夜、さっそく試してみました。
すると、不思議なことに胸の奥の不安が少しやわらぎ、「眠れるかもしれない」という希望の光が見えた気がしました。
完全に熟睡できたわけではありませんが、その小さな一歩が大きな救いでした。
アロマがもたらした変化
それから毎晩、香りを生活に取り入れるようになり、いつしか習慣となりました。最初はラベンダーだけでしたが、やがてフレッシュなオレンジスイートや清涼感のあるティーツリーなども試すようになり、私の香りの世界は少しずつ広がっていきました。
アロマがもたらした最大の変化は、「眠れない自分」を責めなくなったことです。
「今日は眠れなくてもいい。香りに優しく包まれて休めているだけで十分」――そう思えるようになってから、不思議と自然に眠れる日が増えていきました。
アロマは、私にとって「自分を労り、大切にする時間」を思い出させてくれる存在になったのです。
まとめ
私がアロマを始めたきっかけは、不眠に苦しむ中で先輩から勧められたラベンダーオイルでした。
あの夜、半信半疑で試した「小さな一滴」が、私の人生を大きく変えてくれたのです。
眠れずに焦り、自分を責めてしまう誰かにとって、このアロマの優しい香りが希望の灯となるかもしれない。
あの日、ユキさんから受け取った小瓶の重みは、今も看護師として多忙な日々を送る私の胸に、深く響き続けています。